COLUMNコラム
情勢調査で社会・市場動向をつかむ方法と実践ステップ
情勢調査とは?
情勢調査の定義と目的
情勢調査とは、政治・経済・社会・技術などのマクロ環境や業界・市場の動向を体系的に把握する調査を指します。選挙時の「情勢調査」という言葉が有名ですが、企業にとっても、事業戦略や商品開発の前提となる「外部環境の変化」を見極めるうえで欠かせない活動です。
課題は、現場で見える「自社の売上データ」や「顧客の声」だけでは、外部で何が起きているのか全体像がつかみにくいことです。解決策として、情勢調査では政府統計や業界レポート、独自調査など複数の情報源を組み合わせ、“今どんな変化が起きていて、今後どうなりそうか”を俯瞰的に読み解きます。その結果、投資判断の優先順位付けやリスク管理、シナリオプランニングなど、経営レベルの意思決定を裏付ける材料が得られます。
情勢調査と市場調査・世論調査の違い
情勢調査と似た言葉に「市場調査」「世論調査」がありますが、対象と目的が少し異なります。市場調査は特定の商品・サービスやターゲット顧客にフォーカスし、ニーズや購買行動、競合との比較などを詳しく調べるものです。一方世論調査は、政策や社会問題に対する国民の意識や支持・不支持を測定するものが中心です。
情勢調査は、これらを部分的に含みつつ、「環境変化そのもの」を捉える広い概念です。たとえば「少子高齢化の進行」「キャッシュレス化の浸透」「環境規制の強化」といった長期トレンドを前提に、「自社のビジネスへの影響」を読み解くイメージです。そのため、単発のアンケートだけでなく、統計データや法制度、テクノロジー動向、メディア・SNSの空気感など、幅広い情報を組み合わせる必要があります。
情勢調査で分かる社会・市場動向
マクロ環境(PEST)の変化を読む
情勢調査ではまず、PEST分析(Politics, Economy, Society, Technology)のフレームでマクロ環境を整理します。課題は、ニュースやレポートを日々追っていても、「どの変化が自社にとって重要なのか」が分かりにくいことです。
解決策として、PESTそれぞれについて「自社事業に関係しそうな要素だけ」をリストアップし、影響度と緊急度でマッピングします。たとえば、政治では規制や補助金制度、経済では為替や物価、社会では価値観の変化や人口構造、技術ではAI・IoT・5Gなどが対象です。これを定期的に棚卸しすることで、“追わなくてよい情報”と“優先的に追うべき情報”を整理できるようになります。
業界構造・競合の動きをつかむ
次に重要なのが、自社が属する業界の構造と競合の動きです。課題は、売上やシェアなどの数字に注目しがちで、「なぜその数字になっているのか」という背景要因が見落とされがちな点です。
情勢調査では、業界団体や調査会社のレポート、決算資料、ニュースリリースなどを横断的に収集し、新規参入・撤退・提携・M&A・価格改定・チャネルシフトといった動きを時系列で整理します。そのうえで、「顧客の価値基準の変化」「販売チャネルの変化」「ビジネスモデルの変化」など、構造変化の兆しを読み解きます。こうした整理を行うことで、自社のポジション再定義や、中長期で勝てるポジション取りが見えてきます。
情勢調査の主な方法
公開データを活用するデスクリサーチ
情勢調査の基本は、既に公開されている統計や調査結果を活用するデスクリサーチ(二次データ調査)です。課題は、「どのサイトを見れば必要なデータが手に入るのか分からない」「数字が多すぎて読み切れない」という点です。
解決策として、まずは政府系・公的機関の統計ポータルを起点にしましょう。たとえば、総務省統計局が運営する「政府統計の総合窓口 e-Stat」には、人口・家計・産業・労働など、情勢把握に役立つ統計が集約されています。さらに、経済産業省や業界団体、シンクタンク、調査会社が公表するホワイトペーパーも有用です。
ポイントは、「使えそうな表を片っ端からダウンロードする」のではなく、「意思決定のために知りたい指標だけを決めて探す」ことです。そうすることで、限られた時間でも効率よく情勢の輪郭をつかめます。
アンケート・世論調査による定量把握
公開データだけでは分からない「今この瞬間の空気感」や「特定ターゲットの意識変化」を把握するには、アンケート調査や世論調査の仕組みを活用した定量調査が有効です。課題は、サンプルサイズや質問設計を誤ると、結果が偏ってしまい、かえって誤った意思決定につながるリスクがあることです。
解決策として、①誰の意識を知りたいのか(一般生活者か、自社顧客か、特定業種の担当者か)を明確にし、②回答者属性(年齢・性別・地域・職種など)の配分設計を行い、③回答負荷を考慮したシンプルな設問構成にします。これにより、定量的な裏付けをもった「社会情勢の肌感覚」「購買マインドの変化」を捉えられます。大規模な全国調査が難しい場合でも、パネルを持つ調査会社に依頼することで、短期間に一定の精度を確保したデータが得られます。
インタビュー・座談会による定性理解
アンケートでは数字が見える一方で、「なぜそう思うのか」「背景にはどんな経験があるのか」までは掘り下げづらいという課題があります。そこで有効なのが、デプスインタビューやグループインタビュー(座談会)といった定性調査です。
情勢調査の文脈では、「最近の社会不安や値上げラッシュに対して、生活者はどう対応しているのか」「新しいサービスや技術にどこまで受け入れ余地があるのか」などを、生活シーンや価値観の変化とセットで深掘りします。解決策として、事前にインタビューガイド(聞くべきテーマと質問の流れ)を設計し、偏りのない聞き方を意識することが重要です。調査会社に依頼すれば、モデレーターがファシリテーションを行い、表面には出ない本音やインサイトを引き出してくれます。
Web・SNSデータ分析によるトレンド把握
近年の情勢調査で欠かせないのが、Web検索やSNS上のデータを活用したトレンド分析です。課題は、情報量が膨大で、一部の声が極端に大きく見えやすいことです。また、分析ツールを使いこなす知見も必要になります。
解決策として、まずは自社のターゲットがよく使うプラットフォーム(X、Instagram、YouTube、口コミサイトなど)を絞り込み、キーワードやハッシュタグの出現頻度・共起語・ポジネガ傾向を継続的にウォッチします。これを、統計データやアンケート結果と突き合わせることで、「数字にはまだ表れていないが、じわじわと広がっている価値観の変化」などを早期にキャッチできます。ツール選定や分析設計に不安がある場合は、SNS分析を専門とするリサーチ会社に相談するのがおすすめです。
調査設計のステップとポイント
調査目的と仮説の明確化
情勢調査が形骸化しがちな原因は、「何のために調べるのか」が曖昧なままスタートしてしまうことです。解決策として、最初に「経営・事業のどんな意思決定を支えるための調査か」を一文で定義し、それを分解して調査目的を具体化します。
たとえば、「新サービスの市場投入タイミングを判断する」「既存事業の縮小・撤退リスクを評価する」「成長領域の候補を3つに絞り込む」といった具合です。そのうえで、「現時点でどんな仮説をもっているか」「その仮説を検証するために、どんな指標が必要か」を整理します。これにより、情報収集の優先順位がクリアになり、ムダな調査や資料集めを避けられるようになります。
対象範囲・指標・期間の設計
次に、どこまでの範囲を調べるか(スコープ)を決めます。課題は、「調べたいことを全部盛りにしてしまい、結果としてどれも中途半端になる」ことです。
解決策として、①地理的範囲(国内全体か、特定地域か)、②業界範囲(隣接業界も含めるか)、③時間軸(過去何年分を見るか、将来どこまで予測するか)をあらかじめ設定します。同時に、マクロ指標(GDP、物価指数、人口など)とミクロ指標(購入頻度、支出額、チャネル構成など)を「必須」「できれば」「今回は見送る」に分類すると、リソース配分がしやすくなります。
さらに、情勢調査は一度きりではなく、継続的なモニタリングが重要です。そこで、年に1回は深掘り調査、四半期ごとに簡易モニタリングといった運用サイクルも、設計段階から決めておくとスムーズです。
スケジュール・予算とアウトプット設計
情勢調査は、社会・市場の広い範囲を扱うため、スケジュールと予算の見積もりが甘いと破綻しやすいという課題があります。解決策は、「いつ・誰に・どんな形式で報告するのか」までをセットで設計することです。
たとえば、「2カ月後の経営会議で、次期中期経営計画の前提となる情勢レポートを提出する」と決めれば、逆算して、情報収集フェーズ・分析フェーズ・レポート作成フェーズに分けてマイルストーンを置けます。また、アウトプット形式(パワーポイントのサマリ資料、ダッシュボード、テキストレポートなど)を先に決めておくと、「最後に何を作るために、今どんなデータが必要なのか」が明確になります。
予算面では、社内で対応できる範囲と、調査会社に外注すべき範囲を切り分けることがポイントです。たとえば、既存統計の収集は社内で、独自アンケートやインタビューは外部委託とするなど、役割分担を決めておくと、限られた予算でも最大限の成果を出しやすくなります。
情勢調査の活用事例
新規事業・市場参入判断への活用
とあるBtoCサービス企業では、新規サブスクリプション型サービスの立ち上げを検討していましたが、「本当に今の社会情勢で需要があるのか」という不安から、意思決定が停滞していました。
そこで、情勢調査として、①家計支出構造の変化(統計データ)、②サブスクリプションサービス利用実態(独自アンケート)、③生活者の不安・期待の変化(定性インタビュー)、④競合動向(業界レポート)を組み合わせた調査を実施しました。その結果、「モノの所有から体験重視へ」という価値観のシフトが継続していること、物価高のなかでも“固定で支払う安心感”を求める層が一定数いることが明らかになりました。
これにより、経営陣は「一定の価格帯とサービス設計なら参入余地がある」と判断し、タイミングを逃さず市場投入。初年度から計画を上回る会員獲得につながりました。情勢調査が、参入判断の背中を押した好例です。
既存商品の戦略見直しへの活用
別の消費財メーカーでは、主力商品の売上が数年連続で微減していましたが、社内では「競合の値引き合戦の影響だろう」との見方が大勢でした。そこで、原因を明らかにするため、情勢調査を実施しました。
調査では、①ライフスタイルや家事分担の変化(政府統計+独自アンケート)、②購買チャネルシフト(EC・ドラッグストアの比率変化)、③SNS上での口コミ分析、④自社・競合ブランドに対するインタビューを組み合わせました。その結果、実は価格競争ではなく、生活時間の使い方の変化により、従来の「じっくり使う」タイプから「時短・手軽さ」志向にシフトしていることが分かりました。
このインサイトをもとに、商品コンセプトやパッケージ、訴求メッセージを「時短・簡単」へ転換。さらにEC向けのセット商品を強化した結果、売上減少に歯止めがかかり、翌年にはプラス成長へと転じました。
自社で行うか、調査会社に依頼するか
自社で行う情勢調査のメリット・限界
情勢調査は、自社でも一定レベルまで行うことが可能です。メリットは、①自社事業に直結する視点をもてること、②継続的にモニタリングしやすいこと、③コストを抑えられることです。特に、ニュースや統計のウォッチ、簡易なアンケートなどは、担当者主導で十分に実行できます。
一方で、課題・限界もあります。代表的なのが、情報源が偏りやすいことと、本業の合間では十分な分析時間が取れないことです。また、定量調査の設計・実施や、統計解析・テキストマイニングなど高度な分析は、専門知識が求められます。結果として、データは集まったものの、「結局、何が言えるのか」をまとめ切れないケースも多く見られます。
調査会社に依頼するメリット
調査会社に情勢調査を依頼するメリットは大きく、主に以下の3点が挙げられます。
- 調査設計の専門性
目的から逆算した調査設計ができるため、ムダのない効率的な調査が可能になります。
- データの質と量の確保
パネルや独自ネットワークを活用し、短期間で十分なサンプル数を集められます。また、公開統計や二次データの収集・整理もプロの視点で行われます。
- 分析・示唆出しまで一貫対応
単なるデータ報告にとどまらず、「だから何なのか」「事業にどう活かせるのか」という示唆まで整理されるため、経営会議や企画書にそのまま使えるアウトプットが得られます。
特に、社内にリサーチの専門人材がいない企業や、短期間で経営判断を下す必要があるプロジェクトでは、調査会社との協業が有効です。
パートナー選定のチェックポイント
どの調査会社に依頼するかで、情勢調査の質は大きく変わります。チェックすべきポイントは、以下のとおりです。
- 自社の業界・市場での調査実績があるか
- 情勢調査(マクロ・業界動向)と市場調査(顧客・商品)の両方に強いか
- 調査票設計や分析の担当者と直接コミュニケーションが取れるか
- 図表やレポートの分かりやすさ、意思決定に役立つ示唆が出せているか
- 予算やスケジュールに応じて柔軟に提案してくれるか
打ち合わせでは、過去の事例やサンプルレポートを見せてもらい、「自社の意思決定に使えるアウトプットになりそうか」という観点で比較検討するとよいでしょう。
情勢調査の進め方に悩んだら
「情勢調査の重要性は分かったが、どこから手を付ければよいか分からない」という担当者も多いはずです。最初の一歩としておすすめなのは、「1ページで書ける情勢レポート」を社内向けに作ってみることです。
具体的には、
- 自社事業に影響しそうなマクロトレンドを3つ
- 業界・競合の最近の動きを3つ
- それらが自社に与える影響の仮説を3つ
といった形で簡易レポートを作成し、上司や関係部署と共有してみてください。それだけでも、「もっとここを深掘りしたい」「このデータがほしい」といった具体的なニーズが見えてきます。
一方で、本格的に情勢調査を行い、経営判断や新規事業の立ち上げに活かしたい場合は、早い段階で調査会社に相談するのが得策です。
市場調査の目的に合わせた最適な調査設計をご提案します。
まずは無料相談をご活用ください。
情勢調査・市場調査に関するご相談は、上記フォームからお気軽にお問い合わせください。
まとめ
情勢調査は、政治・経済・社会・技術、そして業界・競合の動きを俯瞰的に捉え、「今、どんな変化が起きていて、これからどうなるか」を見極めるための重要な活動です。公開統計やレポート、アンケート、インタビュー、SNS分析などを組み合わせ、目的から逆算した調査設計を行うことで、経営・事業戦略に直結する示唆が得られます。
自社だけで完結させるのが難しい場合は、調査会社と協力しながら、情勢調査を継続的な仕組みに落とし込んでいくことが成功の鍵です。
貴社の目的に合わせた情勢調査・市場調査の設計から分析・報告まで、一貫してサポートいたします。
まずは現状の課題やお悩みをお聞かせください。
よくある質問(FAQ)
Q:情勢調査と市場調査はどう使い分ければよいですか?
A:情勢調査は、政治・経済・社会・技術や業界全体の動きなど「外部環境」を把握するための調査です。一方、市場調査は、特定の商品・サービスやターゲット顧客のニーズ・行動を詳しく調べるものです。新規事業や中長期戦略では、まず情勢調査で大きな方向性を確認し、そのうえで市場調査で具体的な顧客像や商品コンセプトを検証する、という組み合わせが効果的です。
Q:情勢調査にかかる期間と費用の目安を教えてください。
A:公開統計や既存レポートを中心としたデスクリサーチであれば、2〜4週間程度・数十万円規模から実施可能です。アンケートやインタビューを組み合わせた本格的な情勢調査では、1〜3カ月程度・数百万円規模になることもあります。調査範囲やサンプルサイズ、分析の深さによって大きく変動するため、まずは目的と予算感を共有したうえで調査会社に見積もりを依頼するのがおすすめです。
Q:自社だけで情勢調査を行う場合、最低限やるべきことは何ですか?
A:①自社事業に関係するマクロ指標(人口、所得、物価など)を定期的に確認する、②業界団体や公的機関のレポートをウォッチする、③社内で「月次・四半期の情勢共有ミーティング」を設ける、の3点から始めるとよいでしょう。必要に応じて、簡易なアンケートや顧客ヒアリングを組み合わせることで、定性的な手ごたえも得られます。
Q:どの統計データを見れば、社会情勢の変化を把握しやすいですか?
A:まずは、総務省統計局の「政府統計の総合窓口 e-Stat」で、人口統計、家計調査、消費者物価指数、労働力調査などを確認することをおすすめします。加えて、経済産業省の産業別統計や業界団体の白書、内閣府の景気ウォッチャー調査なども、景況感や消費マインドを把握するうえで有用です。
Q:情勢調査の結果を、社内でうまく活用するコツはありますか?
A:単なるデータ集に終わらせず、①「事業への影響度」で優先順位をつける、②複数のシナリオ(楽観・中立・悲観)で将来像を描く、③具体的なアクションアイデアとセットで共有する、の3点を意識するとよいでしょう。また、経営層や関連部門を巻き込んだディスカッションの場を設け、情勢調査を意思決定プロセスの一部として組み込むことで、活用度が大きく高まります。
この記事をシェアする
Xでポストする
Facebookでシェアする
LINEで送る
リンクコピー