COLUMNコラム
インタビュー調査の進め方と設計ポイント|企業担当者の実践ガイド
インタビュー調査とは?企業が導入する目的
インタビュー調査とは、対象者と対話しながらニーズや価値観、行動の背景にある「理由」を深く掘り下げる市場調査の手法です。アンケートのように数値で傾向を把握するのではなく、「なぜそう思うのか」「どう感じたのか」といった質的な情報を収集します。
企業がインタビュー調査を導入する目的は大きく3つあります。
①新商品・新サービスのコンセプト検証やアイデア探索、
②既存サービスの不満・解約要因などCX(顧客体験)の改善、
③BtoB領域での意思決定プロセスの理解です。
特に、定量調査だけでは「数字の背景」が見えないときに有効です。一方で、設計が不十分だと「意見の寄せ集め」で終わり、事業判断につながらない危険もあります。そこで次章から、種類と進め方を具体的に整理していきます。
インタビュー調査の主な種類
デプスインタビュー(IDI)
デプスインタビューは、1対1で行う個別のインタビュー調査です。1人あたり60〜90分程度じっくり時間を取り、利用シーンや感情の変化、価値観などを深く掘り下げます。特に、購買頻度が低い高関与商材(住宅、保険、高額サブスクなど)や、パーソナルなテーマ(健康、金融、コンプレックス)を扱う場合に向いています。
課題は、時間・コストがかかる点と、モデレーター(聞き手)のスキルによって得られる示唆の質が大きく変わる点です。とはいえ、少人数(5〜10名)のインタビューでも、「なぜ売れているのか/なぜ選ばれないのか」の核心に迫れることが多く、企画段階やリニューアル前の探索的調査としては非常に有効です。
グループインタビュー(FGI)
グループインタビュー(フォーカスグループインタビュー:FGI)は、4〜6名程度の対象者を同時に集めて実施するインタビュー調査です。60〜120分程度で複数人の反応や意見を比較しながら議論を深めます。他者の意見をきっかけに記憶や感情が想起されるため、「あ、そういえば…」という気づきが連鎖しやすいのが特徴です。
新コンセプト案やパッケージデザイン案などの評価、類似サービスとの比較検討など、複数案への反応を短時間で把握したい場面に向いています。一方で、声の大きい参加者に場が支配されるリスクや、同調圧力が働きやすい点には注意が必要です。設計段階で「観察したいポイント」を明確にし、発言だけでなく表情・間なども丁寧に記録することで、グループならではの示唆を引き出せます。
インタビュー調査の基本フロー
①目的・仮説の整理
多くのインタビュー調査が失敗する原因は、「何を明らかにしたいか」が曖昧なままスタートしてしまうことです。まずは社内の関係者を集め、「意思決定に使う前提」を整理しましょう。
具体的には以下を洗い出します。
①ビジネス上の課題(例:トライアルは多いが継続率が低い)、
②現時点の仮説(例:初期設定が複雑で離脱しているのでは)、
③インタビューで確認したい論点(例:導入時のつまずきポイント、他社との比較軸)
ここで重要なのは、「調査後にどんな判断を下すのか」を言語化することです。価格改定なのか、UX改善なのか、訴求メッセージの見直しなのか。意思決定と紐づけておくことで、聞くべきテーマが自然と絞り込まれていきます。
②対象者の条件設計とリクルーティング
次に、誰にインタビューするのかを設計します。マーケティングでは「誰の声を代表させるか」が最も重要なポイントです。属性(年齢・性別・居住地など)だけでなく、購買状況(利用歴、頻度、検討段階)、行動特性(情報収集スタイル、チャネル)まで具体化して条件を定めます。
たとえばサブスクサービスの解約理由を調べたい場合、「直近3ヶ月以内に解約した元会員」「利用期間3ヶ月以上」「アンケートで解約理由を記入してくれた人」などです。リクルーティングは自社顧客リストの活用に加え、調査会社のパネルを使うとスムーズです。リクルート条件が曖昧だと、インタビュー本番で「求めていた人ではなかった」という事態になりかねません。ここはプロの調査会社に相談する企業が多いポイントです。
③質問票・インタビューフローの作成
目的と対象者が決まったら、インタビューフロー(質問の流れ)を設計します。ポイントは「過去の具体的な行動」から入り、「理由・感情・価値観」へ徐々に深掘りしていくことです。いきなり「このサービス、どう思いましたか?」と聞くのではなく、「初めて知ったきっかけ」「検討時に比較したサービス」「導入までのステップ」など、時系列でたどる質問を用意します。
また、質問票は「聞きたいことのメモ」であって、台本ではありません。会話の流れに合わせて順番を変えたり、掘り下げたり引き上げたりする余白が必要です。「インタビュー設計図の図をここに挿入」(例:目的→仮説→論点→質問例を整理したフローチャート)といった形で、社内共有用の図を用意しておくと合意形成もしやすくなります。
④実査(インタビュー実施)
実査では、モデレーター(聞き手)の役割が調査の成否を左右します。最初の5分で参加者の緊張をほぐし、本音を話しやすい空気づくりを行うことが重要です。雑談を交えながら自己紹介を促し、「今日は商品テストではなく、皆さまの日常の声を伺う場です」など、目的をわかりやすく説明します。
質問自体は事前に用意しますが、回答の表現や表情に違和感を覚えたら、「もう少し詳しく教えていただけますか」「そのとき、どんな気持ちでしたか?」と追加で掘り下げます。録音・録画は必須ですが、参加者には事前の同意を取り、個人が特定されない形でのみ社内共有することを約束しましょう。インタビュー後は、すぐにモデレーター同士で気づきをメモし合う「振り返りミーティング」を設けておくと、分析の質が上がります。
⑤発言録の整理・分析・レポート
インタビューの価値は「録音データの山」ではなく、そこから導き出されるインサイトにあります。まずは、重要な発言を文字起こしし、付箋やスプレッドシートで「テーマ別」に整理します。たとえば「認知経路」「比較軸」「導入の決め手」「不満・離脱要因」などです。
次に、各テーマの中で共通するパターンと少数派の特徴的な声を切り分けます。このとき、「何人が言っていたか」を数えるだけでなく、「なぜその人はそう感じたのか」という文脈を重視します。
最終的なレポートでは、①要点サマリー、②主要インサイト(背景・根拠となる発言・示唆)、③具体的アクション案(UX改善案、訴求メッセージ例など)をセットで提示すると、社内の意思決定につながりやすくなります。
調査手法や分析の考え方については、総務省統計局など公的機関が公開している調査関連情報も参考になります。
失敗しないインタビュー設計のポイント
よくある失敗パターンと対策
インタビュー調査でよく見られる失敗は、以下の3つです。
①目的が広すぎて話題が散らかる
②欲しい答えを誘導してしまう
③結果を「意見紹介」で終わらせてしまう
①に対しては、「インタビュー1本で解くのは最大2〜3テーマまで」と割り切ることが有効です。優先度の低いテーマは、別の調査や次回に回します。
②の誘導質問は、「〜ですよね?」と同意を求める言い方や、「AとBなら、やはりAですか?」と自社に有利な選択肢を前提とする言い方を避けることで減らせます。
③については、レポート時に「このインサイトを前提に、何を変えるのか」を必ず一緒に書き出すことが重要です。たとえば、「初期設定が難しくて離脱した」という声が多いなら、「チュートリアルのステップを3つに削減」「サポートチャットの導線をトップ画面に配置」など、具体的な改善案とセットで示すことで、現場で動けるレポートになります。
質問設計のコツ:聞いてはいけない・聞くべき質問
質問設計では、「未来の行動を直接聞かない」ことが鉄則です。「このサービスがあったら買いますか?」と尋ねても、多くの人は好意的に答えます。しかし、実際の行動とは大きく異なるケースがほとんどです。代わりに、「似たサービスをこれまでにどのくらいの頻度で利用してきたか」「最後に有料サービスに登録したのはいつか」など、過去の具体的な行動を聞きます。
また、「なぜですか?」を連発すると尋問のようになり、本音を引き出しにくくなります。「そのとき、どんな場面でしたか?」「他にはどんな選択肢がありましたか?」と、状況や選択肢に焦点を当てて掘り下げると、自然に理由が見えてきます。
一方で聞くべきなのは、「決め手になった一言・一場面」「やめようか迷った瞬間」「友人に勧めるとしたら何と言うか」など、意思決定の分岐点を象徴するエピソードです。こうした話から、コピーライティングやUI設計に直結する生々しいインサイトが得られます。
オンラインインタビューと対面インタビューの使い分け
近年は、Zoomなどを使ったオンラインインタビューが一般的になりました。
オンラインのメリットは、以下のの3点です。
①全国どこからでも参加しやすい
②移動コスト・会場費が不要
③スケジュール調整が柔軟
一方で、細かな表情や空気感が伝わりにくい、通信トラブルのリスクがある、といったデメリットもあります。
対面インタビューは、プロトタイプの試作品を触ってもらったり、パッケージを手に取ってもらったりと、「モノ」や「空間」を伴う評価で威力を発揮します。また、ホワイトボードやポストイットを使ったワークショップ形式とも相性が良いです。
使い分けの目安として、(1)概念レベルの理解や体験談の深掘りが中心であればオンライン、(2)実物を見て触る必要がある場合や、BtoBのキーパーソンにじっくり向き合いたい場合は対面、と考えると整理しやすいでしょう。最近は、一次スクリーニングをオンラインで、詳細検証だけ対面で実施する「ハイブリッド型」を採用する企業も増えています。
企業の活用事例:商品開発・CX向上でのインタビュー調査
たとえば、あるSaaS企業では、無料トライアルから有料契約への転換率が伸び悩んでいました。定量データ上は「初回ログイン後3日以内に離脱するユーザーが多い」という事実までわかっていたものの、理由は不明でした。そこで、直近で無料トライアルを離脱したユーザー10名に対してオンラインのデプスインタビューを実施しました。
インタビューの結果、「初期画面のメニューが専門用語ばかりで、まず何をすればいいかわからない」「ヘルプページはあるが、たどり着く前に諦めた」という声が多数出てきました。これを受けて、初回ログイン時に「3ステップのガイドツアー」を追加し、メニュー名もユーザーの言葉遣いに合わせて改訂したところ、トライアルから有料への転換率が約1.5倍に改善しました。
このように、インタビュー調査は「数字からは見えないつまずきポイント」を特定し、UX改善やコミュニケーション戦略に直結させることができます。記事で紹介した流れやポイントを、自社の課題に当てはめて検討してみてください。
調査会社にインタビュー調査を依頼するメリット
インタビュー調査は、自社で実施することも不可能ではありませんが、特に初めての企業担当者にとっては負担が大きくなりがちです。
調査会社に依頼するメリットは、以下の4点です。
①目的に沿った設計(目的整理〜仮説設定〜質問設計)
②対象者のリクルーティングノウハウ
③モデレーションスキルと中立性
④分析レポートの質
社内の担当者だけでインタビューを行うと、「自社サービスを肯定してほしい」という無意識のバイアスが働きやすく、質問や解釈が偏るリスクがあります。第三者が入ることで、ユーザーのネガティブな声も含めてフラットに受け止められます。また、BtoBの経営層や専門職などリクルートが難しいターゲットに対しても、調査会社が持つパネルやネットワークを活用することで効率的にインタビューが実施できます。
インタビュー調査の設計や実施を検討されている場合は、一度専門会社に相談し、費用感や進め方のイメージを掴んでおくと安心です。当社へのご相談は、お問い合わせページからお気軽にお送りください。
インタビュー調査設計のご相談はこちら
市場調査、とくにインタビュー調査は「設計」で成果の8割が決まります。
「自社だけで進めるのは不安」「目的整理や質問設計からサポートしてほしい」という場合は、プロのリサーチャーが目的に合わせた最適な調査設計をご提案します。
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まとめ
インタビュー調査は、顧客の本音や意思決定の分岐点を明らかにできる、企業にとって非常に強力な市場調査手法です。一方で、目的・仮説・対象者・質問設計を丁寧に行わないと、「聞いただけ」で事業判断に結びつかないリスクもあります。
この記事では、インタビュー調査の種類、基本フロー、設計のポイント、質問のコツ、オンライン/対面の使い分け、活用事例、調査会社に依頼するメリットを整理しました。自社での実施を検討しているご担当者の方は、まずは小規模でも良いので、明確な目的を持ったインタビューから始めてみてください。
具体的な設計やリクルーティング、レポーティングまで含めて相談したい場合は、ぜひ下記よりお問い合わせください。
よくある質問(FAQ)
Q1:インタビュー調査には何人くらいの対象者が必要ですか?
A:目的によりますが、新規コンセプトの探索や課題の仮説出しであれば、1セグメントあたり5〜8名程度のデプスインタビューでも十分な示唆が得られることが多いです。複数セグメントを比較したい場合や、FGI(グループインタビュー)を実施する場合は、2〜3グループ(1グループ4〜6名)から検討するとよいでしょう。
Q2:インタビュー調査はどれくらいの期間で実施できますか?
A:設計〜リクルーティング〜実査〜報告まで含めると、一般的には6〜12週間程度を見込むケースが多いです。対象者条件が厳しい場合や、対面での実施・同席が必要な場合は、もう少し余裕を持ったスケジュール設計が望ましいです。オンラインインタビューのみであれば、リクルーティングが順調に進めば2週間程度で完了することもあります。
Q3:インタビュー調査の費用相場を教えてください。
A:対象者条件(一般消費者か専門職か)、インタビュー時間、対面/オンライン、分析レポートの有無などによって大きく変動しますが、目安としては「1件あたり数万円〜」と考えるとイメージしやすいです。全体では、10名規模のデプスインタビュー+レポートで数十万円〜が一般的なレンジです。具体的な見積もりは、課題とご予算を伺ったうえで提示する形になります。
Q4:社内でモデレーターを担当しても問題ありませんか?
A:可能ですが、初めての場合は「誘導質問をしてしまう」「話を深掘りしきれない」といった課題が生じやすくなります。最初のうちは、調査会社のモデレーターに同席し、進め方や質問の投げ方を学びつつ、一部パートだけ担当するなど段階的にスキルを身につける方法をおすすめします。
Q5:インタビュー調査とアンケート調査(定量調査)はどのように使い分ければいいですか?
A:インタビュー調査は「なぜそうなるのか」を深く理解するのに向いており、アンケート調査は「どれくらいの人がそうなのか」を把握するのに適しています。新しいアイデアの探索や課題の仮説出しにはインタビュー調査、本格的なマーケットサイズの推計や効果検証にはアンケート調査、と組み合わせて使うのが効果的です。
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